A Seat of The Art
アートの座

チャオのデザインは、デザイン性や機能性だけではなく、人とその環境のダイナミックな関係性を探求しています。鏡を用いることで、あるいは椅子という物体そのものによって、人間の視点を揺さぶることを狙います。

ハーバード大学とペンシルベニア大学で建築を学んだチャオは、芸術的な直感と計算されたリサーチのバランスを体現しています。これらの二面性を融合させて「Roll-Up Chair」は生まれました。この椅子は、デニムやキャンプ用品、軍用装備といった実用的な文化遺産、そして彼女が暮らすニューヨークのコンパクトな空間から着想を得た作品です。このアートピースは「美しい実用性」というG-STARの哲学を体現するものでした。

今回、チャオと共にデニムの魅力やその細部、そして「家具は服のように折りたたんではいけないのか？」という問いの背景について話を聞きました。

素晴らしい学歴をお持ちですね。最初に建築に惹かれたきっかけと、その後どのように進化していったかを教えてください。

建築への入り口はファインアートでした。芸術的な側面が好きだった一方で、機能性も加えたいと思ったのです。そこで建築のキャリアをスタートし、大型建築や高層ビルの設計に携わりました。でも次第に、もっと小さく個人的なプロジェクトに惹かれるようになりました。その結果、大学院に戻り、建築とプロダクトデザインの間にある領域を探求することになりました。私はそのスケール感に魅力を感じます。それは私たち人間が最も直接的に関わるところです。距離を隔てて体験する高層ビルとは異なり、家具やインテリア、小さな建築は触れられる存在であり、より個人的なレベルで人とつながるのです。

ファインアートに興味を持ったきっかけは何でしたか？

私はデザインが大好きです。若いうちはまだ専門的に学んでいないことも多く、自分が何に惹かれているのか正確には分からないものですが、アートや美的なものに惹かれる気持ちははっきりとありました。時間が経つにつれ、自分が本当に愛しているのは「デザイン」だと気づいたのです。それも建築だけ、家具だけではありません。その中間の領域こそが最もワクワクする場所です。人々に新しい視点を与えるようなオブジェクトや空間をデザインするのが好きです。同じ作品でも、誰がそれを体験するかによって全く異なる反応が生まれるのが面白いですね。私は人間の「認識」について強い関心があり、デザインが私たちの先入観にどのように挑戦できるかを探っています。私たちが知っていると思っているものの境界をどうやって押し広げるのか。例えば、椅子とは何か、そしてそれをどう再定義できるのかということです。

あなたの作品は非常にコンセプチュアルですね。この作品に関しては、どのようにアイデアを発展させていったのでしょうか？

分解と再構築を前提にデザインされたオブジェクトに関する本を読んでいたのですが、それが、キャンプ用家具のことを考えるきっかけになりました。軍用家具とも近いカテゴリーで、軽量で持ち運びが可能で、機能的。これはデニムとも面白い共通点があると感じました。かつては作業着だったデニムが、今ではファッションの象徴になっているように、見過ごされがちなキャンプ家具も、アートとして再解釈できるのではないかと。この問いは、「家具とは何か」という議論をもたらすと思います。ニューヨークのような都市で暮らしていると、常にスペースとの闘いになります。だからこそ、モジュール式の家具には本当の意味での実用性があるのです。私たちは日常的に物を移動させていますし、分解と再構築ができる家具は今の時代に非常に合っていると思います。

このチェアでは、パッド入りのデニムロールが特徴的ですね。これはキャンプ用品、たとえばロールアップ式の寝袋などを意識されたのですか？

はい、それは確かにインスピレーションの一部になっています。ロールやシートパッドは、特に背中に担ぐロールアップ式のエアマットなどのキャンプ用家具から着想を得ています。ただ今回のプロジェクトでは、このチェアを「思考のピース」と捉えています。家具とは何かを再考させるきっかけとなるような存在です。フレームには、建設用のファスナーや導管、既製の手すり部品など、工業材料を用いたスチールパイプを使用しています。椅子に使用するとは思えないような、まったく異なる分野の部材ばかりです。ロール状のクッション部分は主に寝袋やマットを参考にしており、理論上はそのまま使用することも可能です。そこにG-STARのデニムを使うことで、ユーティリティファッションの豊かな歴史が加わり、特別な意味を持たせることができました。最終的に、この椅子はまるで衣服のように、完全に分解して壁に掛けることもできます。実用的な家具から衣類に近い存在へと変化するこの過程は、私にとって非常に面白い終着点でした。

この椅子では思想的な作品としての要素が強いのですが、実際に座ることは可能ですか？

はい、もちろん座れます。私にとって、どの作品においても機能性は非常に重要な要素です。実際、この椅子においても人間工学の観点から多くの検討を重ねました。最終的に気づいたのは、本質的に必要なのは「座面」と「背もたれ」だけだということです。この2つの要素が、比率と間隔の面で人間工学的に適切であれば、身体を必要な位置でしっかりと支えてくれます。もちろん、8時間のデスクワーク向けに設計されているわけではありませんが、座ることは十分可能です。その彫刻のような見た目からは意外と思われるかもしれませんが、実際には座り心地が良いと驚かれることも多いです。

納得しました。それから、手すりの部品を使っているとおっしゃっていましたが、そういった素材はどこで入手されていますか？

私は、思いがけない場所から素材を調達することに非常に興味があります。多くの作品では、工業用のサプライヤーを頼ることが多いですね。例えばこの椅子のスチールフレームは、通常は手すりのシステムを製造している業者から取り寄せました。G-STARのために制作したプロトタイプには、工業用サプライヤーから仕入れた実際の電気配管を使いました。彼らは家具デザイナーと仕事をした経験はなく、電気技師や建設業者との取引がほとんどの取引先でしょう。ファンクショナルアートという分野では、ほとんどが一点ものになります。もちろん、こうした作品を生み出すには多大なエネルギーと労力が必要です。でも、既にこの世にある素材だけで、同じくらい特別で面白いものが作れるのではないか？とも思います。例えば、建設現場の副産物などです。そうすることで、見過ごされてきた素材に新たな価値を見出し、思いもよらない組み合わせで作品を構成できるかもしれません。

確かに、それぞれの素材には物語や歴史、過去の痕跡が残っていますし、すでにあるものを新たな目的で再利用するという意味でも、非常にサステナブルですね。それは今回使用されたデッドストックのデニムも同様です。

さらに取り入れたのが、G-STARのジーンズで使われているシルバーのスナップボタンです。これがクッションを固定する役割を果たしています。

あなたの他の作品では、クローム、ガラス、金属といったソリッドな素材がよく使われています。特に目を引く存在ですが、それには理由があるのでしょうか？

私の「認識」に対する関心と大きく関係していると思います。ガラスやクロームといった素材は、周囲の環境や光、さらには自分自身をまったく異なる方法で映し出します。空間の捉え方、自分自身の存在、その場にいるという感覚などを探るのにふさわしい素材だと感じています。多くの作品では、そういった素材を使って、反射や光の変化を一日の中でどう演出できるかという点に挑戦しています。

デニムを扱うのは初めてと伺いましたが、普段の素材とはかなり違いましたか？

はい、間違いなく違いました。これまでにも椅子張り用のファブリックは扱ったことがありましたが、デニムは初めてでした。とても面白く、やりがいのあるチャレンジでした。なぜならデニムは、柔らかい素材とはまったく異なる反応をするからです。特に今回の椅子は「巻く」という構造で、13フィート（約4メートル）もの長いストリップ状のデニムをクッションとしてロールさせています。快適な太さを出すには、それだけの長さが必要なのです。正しく巻けて不要な部分にたるみが出ないように、何度もプロトタイピングを重ねました。これまで扱ったどんな布とも異なる素材でした。

それがローデニムだと、さらに難しかったのでは？ローデニムは履き込むことで身体に馴染み、使う人特有の「フェード（色落ち）」が生まれる文化がありますね。

まさにその通りですし、そこがとても魅力的だと思いました。ローデニムが着用によって変化していくように、この椅子の座面も時間と使用によって表情が変わります。今後、時間の経過と使用状況によってデニムとクッション部分がどのように変わっていくのかが楽しみです。デニムの最も面白い特性の一つは、その「エイジング（経年変化）」だと思います。

このプロジェクト全体を通して、一番のチャレンジは何でしたか？

この作品では、まさに「発明」がたくさん必要でした。それが非常にワクワクする反面、とても難しいものでした。本来の目的とは異なる使い方で部品を扱うことは、常にチャレンジです。特にクッションの張り具合やパッド、そして人間工学の面でもうまく機能するように仕上げるには、多くの時間と労力がかかりました。もうひとつ大きな課題は、「分解可能なデザイン」にすることでした。接着剤や溶接を使わない場合、構築的でメカニカルなファスナーにすべてを頼ることになります。しっかりと固定されつつも、簡単に分解できるという、相反する要素の両立が必要でした。

作品では、常に人間工学について意識されていますか？

もちろんです。椅子をデザインするなら、人間工学は欠かせない要素です。そうでなければ、それは「椅子」とは呼べないと思います。たとえアートピース寄りの作品であっても、機能はきちんと果たすべきだと考えています。「座る」という行為は、人間にとって最も基本的な動作のひとつです。私たちは何千年も前から座ってきましたし、これからもそうであり続けるでしょう。「人間工学的」という概念も時代とともに進化していて、それがとても興味深いです。私の作品では、常に最優先というわけではないにせよ、必ず考慮している要素のひとつです。

つまり、実用的なアートということですね。

その通りです。